お風呂場で歌え!レット・イット・ビー

レット・イット・ビー
ビートルズの最後のオリジナルアルバム『レット・イット・ビー』は他のアルバムとは明らかに音作りが違い、また別の味わいがある。デビューからずっとプロデュースを手がけ、ビートルズの音楽的な師であったジョージ・マーティンをはずし、フィル・スペクターをプロデュースに迎えたからだ。
フィル・スペクターは’50年代からアメリカでR&Bのグループを主に手がけ、”ウォール・オブ・サウンド(または現在でも業界で”フィル・サウンド”と)”と呼ばれた、彼独自の音作りで名を挙げた敏腕プロデューサーで、ロネッツ、クリスタルズ、ライチャスブラザーズの曲などで有名である。それは、そうだな、「カラオケのエコーを最大にして歌ってる感じ」かな。ストリングスや女性バックコーラスに使うと信じられないくらい美しく聞こえ、一時のR&Bはフィルサウンド一色になったくらいだ。
フィル・スペクター・プレゼンツ
(『アンチェインド・メロディ』は映画『ゴースト/ニューヨークの幻』で使われてリバイバルヒットした)

このフィルの大ファンで、「第2のフィル」になりたがっていたのがポール・マッカートニーで、1964年、ビートルズがロンドンからアメリカ公演に向かう途中の飛行機に偶然フィル・スペクターが乗り合わせていて、ポールはもう夢中で彼に話しかけたという。この時、ジョンたちはほとんど口を聞かなかったらしい。
その後、ビートルズは様々な理由から迷走をしつつ傑作を作り続けたが、アップル社を作って自分達でいよいよ自由な音楽作りができる環境になってから、皮肉なことに逆にビートルズの曲制作は致命的な状況になってしまった。
1969年1月に録音した『ゲット・バック』というアルバムは、もう一度結成時の原点に戻ってがんばろうとポール主体に制作が進められたが、同時に撮影されていたドキュメンタリー映画で判かるようにメンバー間の対立や「やる気なし感」著しく、完成を見ず頓挫してしばらくオクラ入りになってしまう。ジョンは何とかポールとの関係を修復しビートルズを立て直そうと、フィルに『ゲット・バック』のプロデュース(リプロダクト)を依頼した。ポールが大好きなフィルならポールも喜ぶと考えたのだった。こうして彼が手を加えて完成した「フィル・サウンド」の『ゲット・バック』は『レット・イット・ビ−』と名を変えて1970年5月に発売された。
それは時すでに遅く、ポールのビートルズ脱退宣言からほぼ1ヶ月後のことだった。アルバムは相変わらず記録的なセールスを見せたが、その出来についてはポールが強い不満を漏らした。「これは僕の考えていたサウンドじゃない!」
この辺が面白いねえ。あれだけフィルに憧れてた人が。
僕はこのアルバムの『アクロス・ザ・ユニバース』『ロング・アンド・ワインディング・ロード(特にストリングス!)』のエコーの感じが大好きでした。
ところでビートルズ解散後はポールは自分でプロデュースをするようになり、驚くことにジョン・レノンがアルバム『イマジン』で、ジョージは『オールシングス・マスト・パス』や『バングラデシュのコンサート』のプロデュースをフィル・スペクターに依頼しているのだ。これはこの2人が『レット・イット・ビー』の出来に惚れ込んだからに他ならない。
オール・シングス・マスト・パス ?ニュー・センチュリー・エディション?
(ジョージの最高傑作。彼の音楽の奥深さ・懐の広さが聞き込むごとに判る)

さて、フィル・スペクターという人はもともととんでもない変人として有名だが、2003年2月、ロスの自宅で女性を殺して逮捕されてしまった。その時の家宅捜索で見つかったのがなんと『レット・イット・ビー』のマスターテープで(なぜ彼が持ってた!?)、そのテープをほとんど加工しない形で世に出したのが『レット・イット・ビー・ネイキッド』で、ここにはポールが嫌ったあの『ロング・アンド〜』のストリングスが無かったりする。これがまさにポールが望んでいた音だ。
永年最初のバージョンに聞きなれていた僕にはスカスカな感じがした。もっとも通算4回観た映画で聞かれるのはこの音で、この映画、日本ではビデオ化されてないのでいつか聞き比べてみたいと思っていたのだが、スペクターが逮捕されたおかげで実現したわけだ。う〜ん『ネイキッド』を聞き込んでくとなるほどポールの気持ちも少し分かるような気もする…。もっとシンプルに行きたかったんだね彼は。

ところで、カラオケの大好きなあなた、一度エコーを一切かけず歌って、ラジカセで録音して聞いてごらん。二度と人前で歌いたくなくなるよん。あ、ギターとかもね、ディレイやリバーブかけないで録音して聞くと凄い恥ずかしいぞお。
だからフィル・スペクターは本当に偉大だ!
カラオケ会社はフィルに著作権料払いなさい。
レット・イット・ビー...ネイキッド (CCCD)
(映画の方は輸入版はあるんだけど字幕が無くってわけわからん!日本でビデオ出してくれ〜。著作権者出てこ〜い!)