マコの代表作『砲艦サンパブロ』

マコが亡くなったので『砲艦サンパブロ』についてまた書きます。
僕がこの映画を初めて観たのは確か中学1年くらいだったと思う。テレビで2週に渡って放送されたものだった。それまで怪獣映画とかSFとかしか観たことがなく、こんなシリアスな戦争ドラマに接したことも初めてだったと思う。舞台が中国で「東洋人と西洋人の違い」が明確に描かれ、両者の友好・友情と確執・対立が3時間のドラマの中に織り込まれ、特に東洋人である日本人にも生々しい「戦争の悲惨さ」が自分にはとてもショッキングだった。

それほど派手な戦闘シーンはない戦争映画なのだが、多彩な登場人物それぞれの立場や思惑が丁寧に、それがじわじわと悲しい結果へと導かれて行く。ラストは本当に悲惨で、多感?な時期にこれを観た僕は当時かなり影響を受けた。『大脱走』なども好きだったが、映画の本当の面白さを知ったのはこの映画だった。僕が映画関係の仕事がしたいと思うようになったきっかけもこの映画だった。余談だが、その後はなかなかこの映画を観る事ができず(まだ家庭用ビデオの無い時代)にいたが、後に僕が念願叶って映画関係の会社に入った時、この『砲艦サンパブロ』のビデオ用字幕製作の仕事があった(レーザーディスクが日本初発売された。その時)。僕はもう大感激で、仕事とはいえ、ほぼ10年ぶりに観た『砲艦サンパブロ』はやはりまぎれも無い傑作だと思った。
(観てない方へ。ネタバレが少しありますが、この映画傑作すぎるのであまり影響はないでしょう)
第二次大戦直前の中国が舞台。中国に進駐した米海軍のオンボロ砲艦サンパブロ。中国では折しも国民党の勢力が拡大し、反米感情が高まり、サンパブロとその乗組員たちにもその波が押し寄せて…というのが物語の概要。アカデミー賞作品賞など8部門で候補になった。

監督は『ウエストサイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』のロバート・ワイズ。SFやミュージカルなど何を撮らせてもこなす職人監督のイメージがあったが、こういう社会派ドラマ、風刺の利いた物語で実は圧倒的な演出力を発揮する人だと分かる。
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この映画のみどころは演技力抜群の俳優陣。
主演はスティーブ・マックイーンで、僕の時代からは『大脱走』『荒野の七人』『ブリット』などどちらかというとアクションスターとしての強烈な印象があるが、この映画では彼の演技派としての力を見せつけてくれた(アカデミー賞候補になった) 。
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マックイーンの親友役の水兵で、後に中国人の女性に惚れてしまい、脱走兵となる男にリチャード・アッテンボローが扮している。『大脱走』や『飛べ!フェニックス』などに出演する俳優だが、『遠すぎた橋』『ガンジー(アカデミー監督賞受賞)』『コーラスライン』などの監督としても活躍する、サーの称号を持つイギリスの重鎮。『マジック・クリスチャン』にも出てましたね。僕はこのサンパブロが彼のベストアクトだと思っています。
http://d.hatena.ne.jp/yunioshi/20060716

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(これがまた面白いんだ!リメイク版など目じゃないぞ)


その彼が惚れる東洋人女性を演じたのがエマニュエル・アルサン。その名でわかる通り、彼女は後に作家に転じ、『エマニエル夫人』の原作を書いた才色兼備の人。
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(僕ぐらいの歳の男には血が騒ぐ一本)


人道支援のため戦場にやって来ている伝道師の女性がキャンディス・バーゲン。国や民族を越えて分かりあえると信じている平和主義者が、危険に曝されてしまうという皮肉。彼女はそれを見事に演じていた。バーゲンはカメラマンとしても知られるが、後にアッテンボロー監督に抜てきされて『ガンジー』で女性カメラマン役を演じてました。
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マックイーンの上官で艦長を演じたリチャード・クレンナは、後に『ランボー』でランボーの上官役を演じていた(『ホット・ショット2』でこの役のパロディを自ら演じていた)。
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そして我らがマコ・イワマツは、マックイーンの手下として船の操縦を教わる中国人の機関士役を演じていた。言葉の違いからなかなか意志の疎通が出来ずにいたが、マックイーンの根気もあってやがてマコが育ち、二人の間に友情も芽生える。だが、中国の反乱によってマコは人質として捕らえられてしまい、マックイーンらの前で拷問される。マックイーンがマコの苦痛を抑えるため泣く泣く自らマコを狙撃して殺してしまうシーンは、今思い出しても胸が締めつけられるほどだ。

このほかにも戦争という理不尽な状況の中で展開されるドロドロした陰謀・裏切り、悲惨な出来事が続々と描かれ実に暗い気持ちにさせられます。

暗に当時のベトナム戦争を批判したものと受け止めることもできるが、もっと根本的な人間の欲望とか避けようのない時代の波のような普遍的なものがきちんと描かれていると思う。
今もアメリカはイラクなどにおせっかいしている。
この時代から何も変わっていないんだなあ。
ぜひ一見をお勧めします。