ビートルズ×モンティ・パイソン+α

マジック・クリスチャン』の続きですが。
この1969年イギリス製作のコメディ映画の最大の特徴は出演者たちの豪華さでしょう。

ビートルズの連中が大きく関わっているが、リンゴ・スターが主演で、 主題曲を担当したのはポール・マッカートニービートルズの弟子バッド・フィンガー。ジョンとヨーコはニュース映像で「劇中」に登場している。
因みにビートルズの曲『ジョンとヨーコのバラード』はリンゴがこの映画の撮影中で、ジョージはエリック・クラプトンの家に遊びに行っていたためレコーディングに参加せず、ジョンとポールだけで作られた(ドラムはポール)。後のポールとジョンとヨーコの関係を考えると皮肉だよなあ。


そしてもうひとりの主役ピーター・セラーズ
http://d.hatena.ne.jp/yunioshi/20060624
で述べたようにかつてジョージ・マーティンと一緒にラジオドラマで名を挙げた人だ。

ジョージだけがこの映画にはほとんどタッチしていない。だが、その彼が後にハンドメイドという映画会社に出資し、プロデューサーとしてモンティ・パイソンの連中の映画を製作することになる。

で、モンティ・パイソンの連中といえばこの映画に二人出演しているのだ!
ひとりはジョン・クリーズ。彼はここでは世界一有名なサザビーズという(ネットじゃなくリアルな)オークションのディレクター(日本にはこれに相当する職がないので訳しようがないが「監督」でいいのかな。セリを仕切る人)を演じている。出品された高価な芸術品に対して主人公たちが(落札価格を告げる時にリンゴがいろんなギャグをかましつつ)変態的に値をつり上げて行く。結局彼らにとって「面白くない芸術品」を破格の値段で買ってボロクソにしてしまう。
クリーズは最近でも『ハリー・ポッター』シリーズや『007』(ボンドを支えるMI6の武器発明家)などで活躍している。
もうひとりはグラハム・チャプマンで、オックスフォードのレガッタの選手を演じている(彼自身はライバルのケンブリッジ大の医学部出身だった)。
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そしてこの伝統のレガッタは、主人公たちが金で両チームを買収し、めちゃくちゃなレースにしてしまう。
で、その買収されるオックスフォードのコーチがリチャード・アッテンボローである(『大脱走
『砲艦サンパブロ』『ジェラシック・パーク』など多くに出演、『ガンジー』などアカデミー賞受賞、ナイトの称号を持つ名優・名監督)。
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彼らの他に…
イギリスが誇る歴史的劇作家といえばシェークスピアですが、『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』の映画や舞台で活躍していた二枚目実力派俳優ローレンス・ハーヴェイが、この映画ではハムレット役で(自分のパロディ)登場し、格式高い劇場で「生きるべきか死すべきか」とか台詞を言いながらストリップをしてしまう。
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(イギリス版ロミオ役)

主人公たちが乗り込む貴族趣味の代表格として登場する豪華客船(実際はクイーンエリザベス2世号)の中には高級キャバレーがあり、そこでは超びっくり。ユル・ブリンナーが登場する。(見てない人のために詳しく言いません)
http://www.yunioshi.com/starsinjapan.html
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(『七人の侍』の勘兵衛役に相当する主役)


このシーンではロマン・ポランスキーも登場する。映画監督として最近は『戦場のピアニスト』などで知られる巨匠だが、本人も役者としてよく自分の映画などに出演してる。因みにこの映画の撮影のため彼はイギリスに来ていたが、その間アメリカに残した身重の奥さんシャロン・テートがカルト集団チャールズ・マンソン・ファミリーに殺されてしまった。チャールズ・マンソンはこの犯行はビートルズの曲『ヘルター・スケルター』に触発されたなどと述べていた。この事件は本当に凄惨で「猟奇殺人」「カルト集団の事件」の代表的エピソードとして今なお世界で取り上げられる。
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(ポランスキーの真骨頂はこういう映画にあると僕は思っている)


船の中にはなぜか吸血鬼ドラキュラが突然現れて金持ち連中を驚かせる。この吸血鬼はクリストファー・リーだ。今80歳過ぎだが『ロード・オブ・ザ・リング』『スターウォーズ』両シリーズに出ている名優。この名優のかつての当たり役といえばハマーフィルムというイギリスのホラー専門映画会社での「ドラキュラ」役で、これもセルフパロディ
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(まさかヨーダとチャンバラやるとは思わなかった!)
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(これこれ。何だか無性に観たくなるんだこの時代のホラー)


ラスト、大富豪たちは巨大な肥ダメを作り、そこに札束を放り込む。紳士を気取った人たちが肥まみれになりながら札束をかき集める様を見せてこの映画は終わる。
こんなぐあいにイギリスの格式や伝統を徹底的に馬鹿にした映画。まさにビートルズがおこなった数々の革命の一端のようにも見える。そしてモンティ・パイソンの連中も正にその旗頭だった。二つのグループが手を組んだのだから当時はかなり強烈だったろう。

この映画はコメディだがこのようにかなり社会批判/文明批評という毒を含んでいる。同じブラックコメディの傑作『博士の異常な愛情』の脚本家としても有名なテリー・サザーンの小説を映画化したものなのだった。
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ピーター・セラーズがイギリス人将校、アメリカ人大統領、ドイツ人博士と三役を演じている!この映画についても書き出すとキリがないんだなあ)
http://www.YUNIOSHI.com/movies2.html#Anchor339403

最後に。この映画のロケ見学にマーガレット王女が来ていたそうだ。映画の内容をおわかりになっていたのだろうか?