めぐり逢えなかったら。

めぐり逢い [DVD]
『めぐり逢い』は、ヨーロッパからアメリカに向かう船で出逢い、次第に恋するようになった男女が、ニューヨークのエンパイアステートビルでの再会を約束して別れる。お互い住所も連絡先も告げなかったので、その約束まで連絡も逢うこともできない。
そして月日は流れ、二人がやっと再会するというまさにその日に、女は交通事故に遭い約束の時間に行けなくなってしまう。
男は彼女が来ないので振られたと思いあきらめてしまう。
ところが…。
という物語。

典型的なすれ違いドラマで、そのもどかしさ、じれったさは胸がしめつけられる。でもこういうことって一昔前までは現実にもよくあったよね。今はほとんどの人がケータイを持ってるのでこんなドラマは成立しないんだろうな。
だから脚本家はやりにくいだろうね。何故なら「葛藤」を作るのが彼らの仕事だから。
”電話”というのは実は現代劇には葛藤を生み出すのに必要不可欠なアイテムで、映画でもテレビドラマでも”電話”が出てこないと成立しない。因みに電話を使う演技の上手い下手で俳優の技量が分かる。日本のテレビドラマでは、電話の場面で笑ってしまう程下手な奴がぞろぞろいる。

ところで。
東京物語』である。いきなり話が飛躍してすみません。

東京物語 [DVD]


杉村春子が電話するシーンである。
杉村春子は日本を代表する女優の最高峰のひとりだと思うが、新劇で演技理論ばっちり身につけた彼女に、小津監督はこんな感じで演技指示したそうだ。
「脚本のここからここまでこのくらいのテンポで台詞を言いながら持っている扇子を開きなさい。その後台詞のここを話す時は開いた扇子の端から端まで目で追いなさい」
それまで演技というと、その役の心理描写とか台詞の意味などを重んじて演じ、舞台や映画で何年もキャリアを重ねて来た彼女は、訳も分からずともかく監督の通り演技した。
彼女は出来上がった映画を観て仰天した。自分が出た電話のシーン。意地の悪い(だが根は悪くない)長女が、わざわざ逢いに来た父母を嫁に託し突きはなす、その冷たく哀しいどうしようもない現実、揺れ動く心情が見事に表現されていたのだった。杉村は後にも先にもそんな演出をされたことはないしあれほど素晴らしい場面が完成されたのは魔法としか言いようがないというようなことをインタビューで語っていた。
これは小津監督だから出来た、本当に「魔法」なんですね。

因みに料理バラエティ「チューボーですよ!」の、最後に関係者に電話するシーンは、下手くそ「電話演技」を逆手に取っていますね。
最後にまた『めぐり逢い』に戻りますが
デボラ・カーが祖母の家で歌う主題曲『めぐり逢いAn Affair To Remember 』のシーンは本当に切なく、心あたたまります。そしてラスト。今の映画に比べるとあまりにあっけない気がしますが、男でも十分泣けます!

(同じ監督が昔撮った同じ映画)
邂逅(めぐりあい) [DVD]

(だからこれは3回めの映画化)
めぐり逢い [DVD]
それだけ愛されている物語なのです。