祝椿三十郎リメイク。

椿三十郎OFFICIAL BOOK (ぴあMOOK)
しばらくぶりで映画のことを。
明日から公開の椿三十郎のことであります。
黒澤明監督のあの傑作をリメイクした。

最近は黒澤プロもいろいろ厳しいのか、積極的に映画のリメイクを行っていますね。テレビでは『天国と地獄』『生きる』がこの間放送されたし、ハリウッドでも続々と企画が進んでいるようだ。
リメイクという行為がどう意味があるのかいろいろ理由はあると思うが、「前作を越える」ための「前作にはない味」がない限り、難しいですね。作り手はずっと前作と較べられてしまうのでプレッシャーが凄い。とにかくそれに挑戦する勇気には拍手を送りたい!

テレビのバラエティとかで見た感じでは脚本はオリジナルのものを使ったとのことなので、予告編でも見られる「本当に良い刀は鞘に入っているものですよ」とか「十人だ!お前らのやることは危なかっしくて見ちゃいられねえ」という台詞はそのままで、ちょっとうれしくなった。脚本に「ここからは筆ではとても書けない」とあったラストの決闘シーンの描写どうするのか?森田監督のことだからいろいろ考えてあると思うので期待します!

最初、織田裕二がこの映画で主役の三十郎役をやると聞いた時、正直嫌だと思った。何故なら、軽妙洒脱な役柄だが、敵を容赦なく皆殺しにするニヒルな剣豪という一面もあるので、織田がその雰囲気に合うかどうか心配したからだ。
まあとにかくまだ見てないしこの映画については他にもいろいろ書かれてあるのでここではこの辺にしておいて、主演の織田裕二のことについて書きたいと思います。

僕が初めて彼を目にしたのは、実は彼がまだデビューしたての1987年のころである。
僕はそのころ東映と一緒にビデオソフトの企画・発売の仕事をしていた。自分が所属する会社が幻燈社という東陽一監督を擁した会社と契約して、ある新作のビデオ化権を持った。その映画は東映との共同製作・東映配給の『愛はクロスオーバー』という映画である。


愛はクロスオーバー [VHS]←いちおうまだ見ようと思えば見られるようですね。


監督は栗原剛志という新人で、確か東陽一作品で長く助監督を務め、これが記念すべき監督第一作だったと思う。出演は永島敏行、平田満名取裕子稲垣潤一田中美佐子ら。
え?ミュージシャンの稲垣?そう、「ドラマティック・レイン」というスマッシュヒットを放ち当時人気のドラマー兼歌手である。この時点で少し嫌な予感がした。

上司から、「この映画を今度うちでビデオにするからお前試写会で見て来い」と言われ会場に向かった。一般の観客を招いた試写会で確か有楽町そごう(現ビックカメラ)にあった読売ホールだったと思う。東映の人と一緒に席に座った。会場はほぼ満員である。若い女性がほとんどだったが、まず主演の永島敏行とか平田満目当てのはずもない。もしや…と思ったら、主演の方がたがステージに現れて挨拶があった。案の定、観客のほとんどは稲垣ファンだった。キャーという声とか花束贈呈とかがあった。
稲垣潤一25周年ベスト Rainy Voice(初回限定盤)(DVD付)


さて、いよいよ映画が始まった。レーサーの話である。『ドリブン』というスタローン主演の映画があったが、同じような感じで、花形レーサーが事故で死に、その未亡人が名取裕子で、かつてライバルであり親友だったレーサーが永島、クルーが平田というキャスティングだったと思う。この三人の友情とか愛情とかがカーレースという舞台で展開する。
そしてかの稲垣ももうひとりのレーサー役で登場するのだ。で、音楽というか挿入歌が全部稲垣潤一のヒット曲。物語は『ドリブン』のように激しいカーアクションとかも無く、盛り上がりも盛り下がりも無く淡々と日常のドラマが進む。要は、全編稲垣のプロモーションビデオ+メロドラマ

…想像してみてください。カーレースにも稲垣にも全く興味の無い僕がいかにこの上映中に眠気と戦ったかを。だが、その眠気は大爆笑で吹っ飛んだ。あの稲垣が台詞をしゃべるのだ!もの凄く深刻なシーンで台詞が…。さすがの稲垣ファンたちも吹き出していたほどだ。ふう〜。どうしたもんだろうか。
絶望的な気分になったところで、見慣れぬ若手俳優が、爽やかな笑顔で登場した。それが織田裕二で、チョイ役だが平田の下で働くクルーの役だったと思う。隣の東映の人が、「彼が今東映が売り出し中の新人なんだよ。今度彼を主演の映画があるから」と耳元で教えてくれた(先に『湘南爆走族』が公開されていた)。確かにこの映画では唯一の明るい要素だったような気がした。
映画は予想通り大コケしてしまったが、織田の経歴であまりこの映画が語られないのはやはり「こんな理由」があるんだと思うけど。

で、その時の僕の印象なのだが、正直言うと「何だか耳が大きい猿みたいなヤツだなあ。東映も変わったなあ」という感じでした(当時は仲村トオルが売り出し中だった)。ファンの人たちごめんなさい。でもこれは僕の予想を反して彼はどんどん売れっ子になりましたね。演技に関しては生意気なくらいうるさいという評判も聞いていて、心の奥でちょっと応援してました。感心したのはやはり『踊る大捜査線』ですね。コメディセンスが抜群で!

さあ、『椿三十郎』が終わったら、次はぜひ『用心棒』に挑戦して欲しいですね!あと『愛はクロスオーバー』を作った皆さんもケナしてすみません。でもあの織田君が世界のクロサワに挑戦です。成長した彼を応援しようじゃありませんか!

というわけで『椿三十郎』公開記念に黒澤明特集ページを作りました。こちらもご覧ください。(まだ途中ですが。
http://www.yunioshi.com/kurosawa.html


椿三十郎<普及版> [DVD]

椿三十郎<普及版> [DVD]