ジャック・ブルースは元ジャック・クラシック?

以前クリームのジャック・ブルースのことをマルチミュージシャンと書いた。言わずと知れたロック史に残るベーシストであり、後のベースプレイに大きな影響を与えた偉大な人なのだが、あまりにもそのベースが凄かっただけに他の才能が忘れられがちのような気がする。
彼は子供の頃聖歌隊に所属していたこともあって歌はもちろんオルガンやバイオリンなど音楽の英才教育を受け、15才のころにはチェロ奏者としてオーケストラで演奏するほどだった。そして地元スコットランド王立音楽大学チェロ科に奨学金を得て入学している。しかし大学に入ってからはジャズに夢中になってしまい、プロのベーシストとしてクラブなどに出演することになった。大学はアルバイトを禁止していため自然に退学することになる。こうしてめでたく世界のポピュラー音楽史に大きな足跡を残すことが出来たわけで、もしあのままクラシック界に残っていたらどうなったかと考えるとちょっと面白い。
その後ジャズ、ブルースのバンドを転々とし、次第に彼の歌がどのボーカリストよりずっと上手いことが知られ、ボーカル兼ベースとして活躍を始めた。音楽の基礎がしっかりしているため、どんなバンドに入ってもどんな曲でも初見で演奏してしまい、皆をびっくりさせたという(ポップス界では現在でも楽譜が読めないミュージシャンは珍しくない)。だが、それまで所属していたバンドではどれも「雇われ」の立場で、やっぱりその才能を花開かせたのはクリームであろう。
クリームの素晴らしき世界
クリームはその当時世界で一番上手いベーシストとギタリストとドラマーの3人が揃ってしまった奇跡のバンドだった。(例えば花札でいうと猪鹿蝶、タモリさんまビートたけしが司会する番組みたいなものか?よけいわからんか)
クリームでジャック・ブルースはベースやギターはもちろん、かつての専門だったチェロ、ブルースハープ(ハーモニカ。これがまた絶品)、ピアノ、オルガン(これらも単なるバッキングでなくめちゃくちゃ上手い)、そして作曲、アレンジ。今なおクラプトン様がレパートリーとしてプレイしている『ホワイトルーム』などクリームのオリジナル曲のほとんどは彼の作曲だし、往年のブルース曲のカバーのアレンジもずっと彼が中心だった。今聴いてもかなりアバンギャルドな曲も多く、これはクラシックやジャズに精通した彼の功績が大きい。そしてほとんどの曲は彼が歌っているし、後にグラミーのベストボーカル賞を受賞したクラプトン様ですらクリーム時代は色褪せてしまうほどだ。 だがやっぱり何よりも凄いのはライブで、インプロビゼーション(いわゆるアドリブ)で30分、しかもたったの三人で演奏するなんて当時では考えられなかった。彼のベースはギターの神様のギターソロとタイマン張れるベースソロをいくらでも弾けた。まさにスーパーグループだったが、ジャック・ブルースがいなければ実現不可能だったのだ。クリームをプログレ、ヘビメタ両方の先祖と考える向きも多いが、それこそこのバンドの偉大なる所以だ。
クリーム解散後もジャック・ブルースはソロでそれなりの活躍はするが、クラプトン様の大成功と比べると影のような感じなので、ファンとしてはもっと応援したくなるのですねえ。
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