メロトロン・フォーエバー!

メロトロンのことをビートルズのところでチョロっと書いてしまいましたが、
http://d.hatena.ne.jp/yunioshi/20060624
概要は便利な「はてなキーワード」を読んでください。
もう少し分かりやすく説明すると、オルガンのようなキーボードで、鍵盤ひとつひとつにテープが仕込まれていて、押すとその高さの録音された音が再生される、という楽器だ。和音も出る。鍵盤から指を放すと0.何秒で即座に巻き戻される。テープに録音された音は「楽器」がほとんどだが、「人の声」だの「犬の鳴き声」だの録音された物をセットすることによって何でも「楽器」になる。
僕は高校生の頃、秋葉原ラオックス楽器館で原物を見たことがあるが、中古で100万円ぐらいしていたのを覚えている。
(断っておきますと、まだキーボードといえばエレクトーンとか高価なハモンドのようなコンボオルガンとかフェンダーローズピアノしか無かった時代である。シンセサイザーはムーグの1000万円もする、しかもモノフォニック(和音が出せない)の時代です。爺いですみません)
「試奏したい方は店員にお申し付けください」という貼紙があったが密かに弾いてみたら、電源も入っていないので当然ながら全く音が出なかった。僕はキーボードはほとんど弾けないから別にどうでもいいのだが、とっても興味があったのでしばらくその場にいたら、僕と同じくらいのお坊っちゃん風の男の子がパパと一緒にやって来て、メロトロンの前でこんな会話を始めた。
坊っちゃん「パパ。これが僕が欲しいメロトロンだよ」
パパ「ほう、ただのオルガンじゃないのか?」
坊っちゃん「違うんだなそれが」
パパ「中古なのにこんなに高いのか」
坊っちゃん「でも、これがあれば何でもできるんだよ。」
パパ「なんか汚いなあ。大丈夫なのか?」
坊っちゃん「音を聴いてみればパパもきっと気に入るよ」
ということで店員を呼んで試奏したいとリクエストした。
面白かったのはその後で、こんなマニアックな楽器に注目すること&明らかに金持ち風のパパ同伴であれば、これは絶対買ってくれるに違いないわけで、店員も2人3人とやって来てセッティングを始めた。その頃は他の客もぞろぞろ集まって来て。(僕以外の客も実はメロトロンに興味津々だったのだった)ところが、店員が汗だくで何をしたかというとフルートかなんかのテープのセットを本体に組み込むのが、それに10分ぐらいかかっていた。やっと出来てじゃあ音を出してみてという段になったのだが、何かの不具合で音は全く出なかった。ああだこうだと店員がすったもんだして、結局別の楽器のセット(カートリッジ)に変えようということになって。また10分ぐらいかけて交換したがそれでも音が出なかった。店員は「仕入れた時は大丈夫だった」云々言ってるが真っ青で、その頃は、もう他の客たちはもちろんすっかり興醒めでその場を離れていった。
で、当の客の親子といえば、
パパ「こんな、音を出すだけで大変じゃライブで使えんの?」
坊っちゃん「う〜ん、でも録音の時使えばいいよ」
パパ「(店員に)で、この別売カートリッジのセットっていくらなの?」
店員「(作業しながら)だいたい10万円くらいです」
パパ「え!そんなにするの。それって付属で幾つついてるの」
店員「いえ全部別売です」
パパ「え〜。高いねえ。しかも動かないじゃない」
店員「今たまたま音出ないですが、聴いていただければ絶対納得されますよ」
パパ「で、買った後、こんなふうにあんた方がセッティングしてくれるの?」
店員「え〜と…それは…確か輸入代理店が…」

もちろんそんなものはやってくれやしない。
(誤解無きよう。ラオックスの店員は親切で優秀です。僕はずいぶんお世話になりました。メロトロンがメチャ厄介なだけです)
僕もその時には面倒臭くなってしまってその場を離れてしまった。だからこの後の顛末はわかりません。
無事音が出て彼らが購入したのかもしれませんし、やめちゃったかもしれないが、その後日本の音楽シーンでメロトロンが活躍した話は一切聞かない。
というわけで僕は遂にメロトロンの生音は聴くことがなかった。
まあとにかくこんな超アナログでメンテナンスが大変な楽器は、音は独特で面白かったけれどその頃すでに時代遅れになってしまってたので、使ったとしても1〜2年が限度だったでしょう。
この親子が買ったとしたら100万円+αが水の泡ですね。実際、それからわずか数年でシンセが格段の進化をとげ、デジタルサンプリングの時代になって、メロトロンは本当に「あだ花」のようになってしまったが、デジタルサンプリングの時代になってもこの「メロトロン」の独自の音は出せなくて、デジタルサンプリング版「メロトロンのアナログストリングスの音」が売ってたりして、ああっもうややこしい!
それほど魅力的なのは「似て否なる人工の美しさ」がこの楽器にあったからだろう。
ビートルズはこの楽器の使用者としても先駆者だったが、
『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』のイントロのフルート、『アイ・アム・ザ・ウオーラス』のイントロのストリングス、『コンティニュー〜バンガローヒル』のイントロのスパニッシュギタ−風フレーズ、『ロング・アンド・ワインディング・ロード』の女性コーラスなど多用した。 彼らが凄いのは、本物のミュージシャンを使おうと思えばいくらでも使えた状況なのにメロトロンを使ったことで、メロトロンを「本物の楽器の代替」でなく、その「人工的な変な」音に惚れたからだろう。
で、同じようにその音に惚れた方々は、以下である。
奇しくもビートルズの最後のアルバム『アビーロード』をヒットチャート1位から引きずり降ろしたキング・クリムゾン。彼らがメロトロンの第一人者と言われるのはこの2枚による。特に2枚目の『デヴィルズ・トライアングル』はホルストの『惑星』にインスパイアされた曲でメロトロンの嵐!
クリムゾン・キングの宮殿 (ファイナル・ヴァージョン)(紙ジャケット仕様)
ポセイドンのめざめ+2(ボートラ入り)(紙ジャケット仕様)

この他、
ムーディブルースの『サテンの夜』のストリングス、
Days of Future Passed
(このバンドのギタリスト、デニー・レインが後にウィングスに加入する)

10CCの『アイム・ノット・イン・ラブ』のコーラス、
The Original Soundtrack
レッド・ツェッペリンのライブでは名曲『天国への階段』のイントロのリコーダー部が有名だね。
永遠の詩 (狂熱のライヴ) (紙ジャケット仕様)
これらのバンドの曲をコピーする時、今のキーボード機材はずっといい音が出せるんだけど、やっぱり「デジタルサンプリング版「メロトロンのアナログストリングスの音」がいいなあ。変かなあ。