丹波哲郎?知らねえ、そんな人、知らねえ!

丹波哲郎が亡くなった。おそらく今頃はあの世で嬉々と過ごしているでしょうが、最後の「豪快さん」といった感じの芸能人だったのでいなくなって本当にさびしい。若い人たちは「霊界好きなバラエティに出てたおじいさん」のイメージなのでしょうか?
実は凄い俳優さんでした。
国際派俳優の証しはこちら。
http://www.yunioshi.com/japaneseinmovies.html#Anchor1458354


僕らの世代ではなんといっても『キイハンター』でしたね。無国籍サスペンスアクションシリーズであんな話が毎週よく作れたと今さらながら感心させられます。


映画では躊躇なく『砂の器』を代表作に僕は選びますね。
砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]


原作を読んでない方にはぜひ一読をお勧めします。緻密で繊細なストーリー構成と人間描写は圧巻でかなりな長編だけどあまりに面白いので一気に読めてしまいます。
砂の器〈上〉 (新潮文庫)  砂の器〈下〉 (新潮文庫)


丹波さんが出演した映画の方はその傑作小説を超越した作品である。凌駕ではなく次元の違うところで傑作なのです。そうあのラストのおよそ30分に及ぶフラッシュバックで構成される場面です。警察署の捜査本部で丹波哲郎が「本件の犯人は…」の台詞で始まり犯人の悲しい過去が語られていく部分ですね。この回想場面は台詞がほとんど無い。役者の見事な演技と望遠から広角レンズまでその効果を駆使した撮影の見事さ、そして叙情と哀愁に満ち且つダイナミックな音楽。編集のバイブルとしかいいようのない隙のないカッティング。日本映画屈指の名場面だろう。それは映像美という「映画だけが可能な表現」であり、それゆえ小説とは違う次元での傑作となったのだと思う。
で、この映画の最高の殊勲者は山田洋次だろう。彼といえば国民的人情喜劇「寅さんの監督」のイメージが強いが実は脚本の天才で、あの原作を大胆にカットし、しかも最も重要なエキスを抽出して映像だけで謳い上げるよう仕立てた技術は本当に素晴らしい。
2回テレビドラマ化されているが、遠く及ばないのはこの脚本の違いだろう。映像化するなら原作を超えるつもりで何十倍もの「想像力」と「創造力」を働かせねばだめなんですね。
それにしても我らが丹波さんが最後の方で「繰り返し繰り返し…繰り返し繰り返し…」と涙で声を詰まらせてしまう演技にも本当にまいってしまいました。『砂の器』に関してはまた改めて書こうと思います。丹波哲郎さん、ともかく御冥福をお祈りします。