ハーフが登場する時代劇!?岡田眞澄2

前回は『[rakuten:hmvjapan-plus:11155351:title]』から俳優・岡田眞澄を紹介しました。
http://d.hatena.ne.jp/yunioshi/20140608

今回は『ハーフマニア』番外編で彼が出演した異色の時代劇『幕末太陽傳』(1957)について。

幕末太陽傳 デジタル修復版 DVD プレミアム・エディション

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だいぶ前の日記だがこの映画についてはちょっとだけ書いたことがある。この映画で脚本(山内久川島雄三と共同脚本)と助監督を務めた今村昌平監督と番頭役で出演した岡田眞澄が一日違いで相次いで亡くなった頃のことだ。
http://d.hatena.ne.jp/yunioshi/20060531


この映画は、日活製作再開三周年記念と銘打った大作で、日活が社運を賭けて作った作品だ。そのため、売出し中の石原裕次郎をはじめ、後に日活の屋台骨を支えることになる若手スターがゾクゾクと登場する。小林旭二谷英明左幸子南田洋子芦川いづみらだが、さすが川島雄三、彼らを主役に据えたりしない。皆傍役だ。新人だった岡田眞澄遊郭の番頭(正確には若衆。見習い中)という役で出演してるのだが、彼もまたチョイ役で台詞もわずかしかない。というか、時代劇に思いっきりハーフ男子が登場するので、観客はびっくりだ。物語の設定としては黒船・開国後の幕末の港町・品川が舞台なので、来日した西洋人と遊女との間に生まれた青年というキャラクターらしいが、そういった説明は一切無いし、眠狂四郎みたいな暗い陰も全くないので非常にシュールでシニカルなイメージの人物で、正に岡田のために作られたような役どころである。

この映画について書き出せばきりがないのだが、幕末の志士と数本の落語話を組み入れて構成した脚本と配役の妙はどの評論家もファンも認めるところで、日本映画屈指の出来なのは間違いない。
僕はむしろ作品全体を貫く映画のテンポについて絶賛したい。登場人物全員の台詞回し・所作・カメラワーク、編集のスピードがまるで上質の音楽のように心地よく響いてくる。主人公の居残り佐平次フランキー堺)が何でもホイホイチョイチョイとこなしてやり遂げていく様も小気味よく、羽織をふわっと投げてサッと着るシーン、太鼓の見事なバチさばき(フランキーは元ジャズドラマー)など、まるで手品のような観どころも満載だ。原作となった数本の落語と、高杉晋作ら志士が織り成す様々なエピソードは、ともすればバラバラになって何の統一感もない寄せ合わせの物語になりそうなものだが、そこをきっちりと纏め上げているのだ。

ところが、そのテンポが、ラスト近くになって杢兵衛大盡(市村俊幸 彼も元はジャズピアニスト)が馴染みの遊女を訪ねてやって来るところから急激に歯止めがかかる。落語『お見立て』のキャラだが、のんびりとした大金持ち杢兵衛が所謂ズウズウ弁で佐平次とやりとりをする。これまでホイチョイとこなして来た佐平次がこの杢兵衛のせいでだんだんとやりこめられて勢いや調子をどんどん失っていくのだ。この辺りの演出も十分計算されていてラストシーンは墓場ということもあって映画全体がどことなく暗〜くなっていく。(最後の最後は軽快な音楽で終わるが)
これらは完全に監督の手腕によるものだろう。脚本、演出、カメラ、編集のテンポをこれだけうまくコントロールするのは至難の業だ。川島雄三の代表作としても知られるこの映画はもっと世界的に評価されるべきものだと思う。クロサワや小津の作品とまったく遜色ないはずだ。

洋画・洋楽の中の変な日本・がんばる日本『世界に誇る日本の映画監督』
http://www.yunioshi.com/japanesedirectors.html#kawashimayuzo


僕は学生時代にこの映画を確か池袋の文芸坐で初めて観た。明大映研の大先輩ということで興味があったものの、これほど面白い映画だとは知らずに観たのだが、映画が終わって観客から拍手が沸きあがったのにはビックリした。日大芸術学部映画学科の友人がいたのだが、彼も学生時代大学の授業の中でこの映画が上映されて、その時も学生たちの間から自然と拍手が起きたそうだ。面白くて感動する映画は古今東西多数あるが、映画祭でもないのに終わって拍手される映画なんて今でも非常に珍しいだろう。


幕末を舞台にした時代劇に外国人が登場する映画はけっこうあるのだが、ハーフが出てくるのはこれまた珍しい。映画の冒頭、現在の品川(1957年当時)の街並みの様子から始まるのでこれもギョっとする。ラストも現在の品川に戻り、主人公佐平次が走っていくという構想だったがさすがに周囲から反対されて断念したという経緯がある。ともあれ異色の作品でもある。
まだ観てない人はぜひともご覧ください。日本人として知っておくべき日本映画のひとつです。ただ、遊郭が舞台なのでお子様にはお薦めできませんが。